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SSシリーズ欧州形 蒸気機関車

 5  弁装置U

加減リンクは機関車の速度を変えたり進行方向を逆転させる機能をもっています。組立調整はバルブチェストを開けて加減リンクの動きに合う様にバルブを調整します。
加減リンクの働き

(1) ピストンとバルブの位相差

ピストンにはたらく蒸気圧が最も効率よく主動輪に伝えられている状態はピストンとバルブ,動輪が下図の様になるときです。
バルブは右隅の折り返し点に達し蒸気ポートは全開,ピストンはシリンダー中央部を最速で運動しています。

この状態はバルブの位相をピストンの位相よりも90°先行させたときに生じるものであり,偏心棒のクランクピンAを主連棒のクランクピンBよりも90°先行させた位置に保ったまま回転させています。
リターンクランク49を取り付けることによって主連棒47のクランクピンの位相よりも偏心棒48の位相を90°先行させる構造になっています。(=AはBよりも90°前を回転しています 。)
 
(2) 速度(出力)の制御

蒸気機関車の速度(出力)はシリンダーに供給する蒸気量によって決まります。この蒸気量を変える方法は加減弁75の開−閉によってボイラーからの供給量を変えてしまう方法と加減リンク35によって蒸気ポートの開口部を大−小変化させて変える方法があります。

下図は加減リンクによってバルブを開閉する機構を抜き出して描いたものです。図の様に動輪の回転運動Aが偏心棒を通して往復運動Bに変えられ,加減リンク(= 「梃子の腕の長さ」を変える働きをしています)によって,より小さな振幅の往復運動Cに変えられます。

いま,吊りリンクによって心向棒を引き上げていきますと,てこ(加減リンク)の腕の長さが変わりCの振幅が減少します。
付随して往復運動Dの振幅も減少するのでバルブチェスト内の蒸気ポートが全開することは なくなり出力は逓減します。(前項(1)の図参照)

さらに回転軸の位置まで引き上げると心向棒は往復運動を止め,合併てこによるわずかな動きだけとなり蒸気ポートは開閉せずエンジンは停止します。
Dの往復運動は合併てこのはたらきが加味されるので,Cの運動とは若干異なります。
 
(3) エンジンの逆回転

機関車を前進,後退させる(エンジンを逆転させる)方法は走っている1台の機関車の左右の主動輪を側面から見た状態を比べてみると分かります 。
走行状態の機関車の主動輪を右側面から見たときと,左側面から見たときの様子を描くと右図のようになります。


左右の動輪は回転方向が反対で進行方向も逆向きになっています。
車輪が右回転するのが前進ならば,左回転している車輪は後退していることになります。(座標軸が右手系と左手系の絵を並べ て描いて単純に前進・後退と言っているだけのことですが・・・。)

左右の側面から主動輪を描いたこの絵は見方を変えると,片側側面の動輪の前進・後退を描いた絵であるともいえるので,動輪を逆回転させる方法が分かります。

それは動輪の回転方向は偏心棒のクランクピン(図のAと主連棒のクランクピン(図のBの位置関係で決まり,いずれの絵も 動輪の回転方向はピンAがピンBに対して90°先行する 方向に回ることを示しています。

●クランクピン
Bの位置を基準の0°と したとき,Aを反時計回りに90°先行する位置に保持すれば左回り,Aを時計回りの90°(=反時計回りに 換算すると270°)に保持すれば右回りになります。 したがって前進・後退時におけるAの位相差は(270-90=)180°です。

クランクピンAの位置で回転方法が決まるとすると何故加減リンクによって逆転が可能なのか, その理由を図解して考えてみました。
下図のように,心向棒の一端は加減リンクの中で上下に位置を変えることができます。そのため心向棒を回転軸の上方に引き上げますと,それまでの加減リンクに加えられていた往復運動の位相が反転(角度180°変化)して心向棒に作用します。

これはリターンクランクのピンAの位置を90°から(90+180=)270°または(90-180=)90°の位置に付け替えたことに相当します。

逆転するのにリターンクランクの取り付け角度を変える必要もなく, 心向棒を吊りリンクで引き上げれば位相が反転し車輪が逆回転することになります。
 
(4) 加減リンクと偏心棒

バルブチェスト内のスライドバルブは外から は見えませんが,左右に首を振る加減リンクは心向棒を介してバルブに接続しており,加減リンクの動きからバルブの動きを知ることが出来ます。

この加減リンクの首振り運動を行なっているのは偏心棒で,偏心棒と加減リンクとは一体のものとしてエンジンの性能を大きく左右しています。
スライドバルブの開閉が適正に行われる様にエンジンを調整しますが,加減リンクと偏心棒がどのような関係で動 くかを知っていることは重要です。

(1)加減リンクが直立した位置(右図の状態)を基準位置と呼ぶことにします。

(2)加減リンクは動輪の回転に合わせて基準位置の左右に均等に(=等しい振幅で)動くことが必要です。

(3)上記(2)の状態は偏心棒のピン位置がA1(最上点)およびA2(最下点)に達したとき,加減リンクが基準位置を通過する状態であれば実現されます。図中のB1B2A1A2に対応する主連棒のクランクピン位置です。

(4)偏心棒を上記(3)の条件を満たす長さに設定(=製作および調整)すれば,最適な状態でスライドバルブの開閉が行なわれます。

加減リンクの「基準位置」を見つけ出すのは困難に思われるかもしれませんが実際は簡単です。バルブチェストの蓋を開けて心向棒を上下させてみます。バルブが前後いずれにも動かなければ,そのときの加減リンクの位置が「基準位置」です。心向棒の長さが加減リンクの弧の半径になっているのでこの様になります。
偏心棒の長さの決定

偏心棒の長さは設計図上では決められていますが,様々な誤差(モーションプレート34や軸箱守7の取付誤差までもが関係してきます。)が影響するので,他の部分がすべて完成後,最終的に現物合わせで製作偏心棒の製作しなければなりません。

その方法は長さ調節ができる「仮の偏心棒」を作り,車輪を回してバルブの開閉状態を見ながら最適な長さに絞り込んでいきます。

長さの絞込み方法は省略しますが,車輪を前進方向,後退方向に回転させたときバルブの開閉が同じ状態であればリターンクランクの取付け角度も適正で,「仮の偏心棒」も最適な長さになっています。

(左写真)約三十年前に作った「仮の偏心棒A」・・・ ねじを緩めると真鍮棒の長さが変えられます。偏心棒を作るときの穴あけジグには利用できませんが形は偏心棒そのものです。

(右写真)今回,「生きた蒸気機関車を作ろう」を読んで作った「仮の偏心棒B」・・・片側2本のねじの裏側は長穴になっていて長さが変えられます。ジグにも使え,このままでも走れそう に見えます。
 
(5) 加減リンクの操作1

運転室から加減リンクを操作する逆転器です。材料の真鍮鋳物を加工し,蒸気ポートを全開,約75%,約40%開く位置にノッチの切込みを入れました。

(右写真)逆転機の部品

機関車の前進/後退で出力(=蒸気ポートの開き方)の条件を変えてみようかと思いましたが,小型機関車では常に限度一杯の走行ではないかと考え,前進/後進とも切り込み位置は変えずに対称としました。

50 逆転機   51 逆転棒

逆転棒はタンクの下を通すために途中で曲げま した。強度を考慮して径4mmの真鍮棒を使いました。(左写真)


(右写真)
逆転棒51の両端に長さ調節が可能な取付金具を作り,逆転機50のレバーとリバースアーム43をつないでいます。
1 渡辺精一著「ライブスチーム」 模型蒸気機関車の全般について,形式,構造,製作に関することが図と共に詳述されています。蒸機に限らず,車輌製作に行き詰ったら多くの先達の知恵を借りることが出来ます。
平岡幸三著「生きた蒸気機関車を作ろう
製作に必要なすべての図面と製作方法の丁寧な記述によって,ライブスチームを高嶺の花とすることなく,自分の手で育てて自分の庭に咲かせる方法が述べられています。
しかし,夢の実現には並大抵でない努力を要すること,工作技能の向上が不可欠なので材料から自分の力だけで作る蒸気機関車への道はその第1歩がいまだに踏み出せていません。

 

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