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   DD20形 補助機関車 

駆動装置

個人イアウト(庭園鉄道)では急カーブの線路が避けられません。カーブ対策をした駆動装置です。

設計の準備/調べる。探しまわる。

5インチゲージの機関車を白紙状態から設計して作るのは初めてです。完成に漕ぎ着けなければなりませんが,走行性能だけは妥協したくないので,試作1号車から,いきなり左右独立車輪(左右の車輪を独立して駆動する構造)の機関車になりました。

1 歯車やチェーンについての知識が全く無く,性質や形状,どんな規格になっているのか等を調べることから始めました。設計よりもこれらの下調べに多くの時間を費やしました。
歯車には基準円やモジュールという単位が使われることを知りました。強度的にモジュール1の歯車が適当と思い設計を始めたところ,モジュール1は歯数=基準円直径(mm)となっていて,決められたスペース内に4枚の歯車を入れ,所定のギヤ比に歯車を組み合わせるのが単純計算で求められます。モジュールという単位はうまく考えられています。

2 設計のためには現物を手にしてみないと分からないことも多くあります。
使用予定部品を購入し,実際に使えるかどうかを検討しました。たとえば,コンパクトにまとめるために傘歯車やスプロケットの一部をカットします。どの程度までの加工が可能なのかは現物を見ないと分かりません。
モーターやベアリング等も現物に合わせて配置や取り付け方法が決まってきます。

写真 設計前に集めてきた部品の一部です。
a調理器具(ドーナツ抜き) bスプロケット cタイミングベルト・プーリー d傘歯車 e平歯車  fボス付き平歯車

購入しても使えない部品も出ます。使用しなかったcは別の製作に利用します。

3 差動機は4個の傘歯車(ベベルギヤ)と傘歯車のケースがバランスを保ちながら回転して効力を発揮します。そのため,ケースは頑丈で慣性モーメントが小さく,回転軸(車軸)に対して線対称であることが必要です。偏心する心配が少ないことも考え,円筒形で適当な大きさのケースがあれば好都合です。
金属板の加工や旋盤による切削ではうまく作れないので”カップ状の物”に的を絞って探すことにしました。
板厚が少し足りませんが,形と大きさは最適で,足で稼ぐと思いがけない「部品」が手に入ります。一部を切り取ってケースに流用できるステンレスの調理器具(上写真
a)を見つけました。

 

駆動部の設計

下図のように,駆動部は3つの部分(減速/差動/伝動)で構成しています。差動機は自動車の差動機を真似しています。
バックゲージ119mmの中に2列のチェーンと差動機を入れるのでスペースに余裕が無く,各部品は限界まで横幅を小さくしてあります。

(1) 平歯車(減速)
モジュール1の歯車で1段目は歯数18と70,2段目は歯数36と50です。
これらの歯車によってモーターから車輪に回転を伝えるギヤ比は1:5.4になります。

(2) 傘歯車(差動)
使用している傘歯車(ベベルギヤ)はモジュール1,歯数20です。ボス長を4mm短くするとちょうど差動機のケースの中に入る大きさになりました。
また,平歯車のボスを差動機のケースの「蓋」として利用することにし,ボスの中を削って傘歯車の一部を組み込みます。こうすることによって辛うじて差動機を48mmの幅に 収めています。

(3) チェーン(伝動)
車輪間の回転力の伝動には平歯車が適していると思いましたが,製作費を抑えるためにチェーンにしました。スプロケットはB形,歯数は14,使用チェーンのタイプは35です。

 

駆動部の製作

A 平歯車による減速

平歯車はモジュール1で,歯数が18,36,50,70の4枚です。減速比は1段目が18:70,2段目が36:50なので,全体では1:5.4になります。
計算:(18÷70)×(36÷50)=162÷875=1÷5.4

平歯車のシャフトの径は10mmです。深溝玉軸受(6200ZZ)を自作したケースに入れて軸受にしました。
(写真右)軸受はベアリングを使う必要がありますが,市販のベアリングユニットは高額なので使いません。適当なサイズのケースを見付けてきて写真2〜4の順に加工し,1個当たり1/7程度(部品代 =ベアリング+ケースの価格150円位)で済ませました。

B 独立回転車輪と差動装置

傘歯車(ベベルギヤ)は使用条件に合わせて加工する半完成品を購入しました。 歯車の軸穴を目的の径(6mm,10mm)にし,ボス部分を切り詰め,止めネジのネジを切りました。
機械部品の歯車は硬くて加工が困難ではないかと警戒していました。実際に加工してみるとステンレスよりずっと柔らかく意外に簡単でした。

差動機(差動装置)は2個の傘歯車(ピニオンギヤ)をケースごと回転させます。車軸側の傘歯車のシャフトは10mm,ピニオンギヤ側のシャフトは6mmの真鍮棒です。

直線レール上では差動機は車軸と一体になって回転し内部の傘歯車は全く回りません。
曲線レールを通過するときは左右の車輪に位相差が生じるので,その位相差に応じて傘歯車はゆっくりと回ります。
そのため,6mmの真鍮棒をシャフトにしても軸受部が磨り減るほどの回転もしませんし,折れるほどの強い力もかかりません。

(写真右上) 仮組した差動機の歯車構成です。小型化するために平歯車のボス内部に傘歯車の一部を入れました。
(写真上) ケースに傘歯車(ピニオンギヤ)の真鍮軸を固定して完成した差動機です。

C チェーンによる伝動

スプロケットは歯数が14で片側にボス のあるB型です。
車輪のバックゲージ119mmの中に差動機や2列のチェーンが入るので,スプロケットの加工は止めネジの穴があけられる限度の6mmでボスをカットしました。

使用しているチェーンはJIS35番のもので,長さはユニットリンク数で42です。
市販されているユニットリンク数320の標準チェーンを切り離して必要なチェーン4本を作りました。
チェーンの切り離しはどうするのか分かりません。メーカーのサイトにはピンを抜く道具(チェーンカッター)を使うと書かれていますが数千円も します。それならば・・・とピンの頭をディスクグラインダーで削ってしまいました。これで切り離しは簡単に終了です。

チェーンの接続もどうするのか分かりません。カタログには接続に使う「ジョイントリンク」が2種類載っています。一応両方を購入し比べてみると2種類ある理由が分かりました。深く考え もせず,スプロケットの歯数を14,ユニットリンク数を42と決めて設計しましたが,これらの値は小型化できる方のユニットリンクを使うので幸運でした。

ものづくりは人に聞くよりは考えて作ってみて失敗を繰り返し,試行錯誤しながらの経験を積まないと応用が利かないと思っています。
チェーンの使用も実際にいろいろ作ってみないと整合性のあるものが出来ないと感じました。
注1チェーンの問題点

(写真)
スプロケットのボス部分は薄いのでチェーンに隠れて見えません。台車枠の中央右側の板は懸架装置のバネを収めている蓋です。 台車枠中央から左側(駆動軸側)半分に分散している7本のネジはモーターと歯車の取り付け用です。

D モーターの取り付け

歯車による回転力の伝動はモーターと歯車の取り付けを同じ金具に一体化してしまうのがよいと考え,全体を 二枚の金属板に取り付け,ユニット化しました。

(写真)
建築金物」としてホームセンターで売っていた厚さ2mmのL形鉄板を流用しています。少しだけ手を加えるだけでそのまま使うことができ,自分で鉄板を加工するよりも安価で頑丈です。

 

(注1) メーカーのwebサイトを調べてみると,チェーン 使用が不適当とする条件があげられていました。この台車では多くが該当し,問題があるのかも知れません。
・・・駆動軸・伝動軸間距離が短い。軸間距離が任意には決められない。模型特有の高速回転になってしまう。チェーンには適した回転方向があり前進・後退に伴う逆回転は良くない。頻繁に給油が必要 ・・・など,チェーンの「良くない使い方」になってしまいます。ただ,そばな高原鉄道ではチェーンに高負荷はかけず,使用も短時間なので実際には支障がでない様に思います。

(製作費) 平歯車(8個)5,500円,傘歯車(8個)5,300円,チェーン類1,500円,スプロケット(8個)2,600円,深溝玉軸受け(4個)500円,鉄板類500円,ネジ類100円,モーター(2台)16,000円,    合計(前頁の製作分とモーターも加えた2台車の製作費総額) 53,350円

 

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台車枠車台製作