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大径車輪−小径車輪 個性をもった鉄道を目指して<4> 線路は様々なタイプの車輌(車輪)が最良の状態で走行出来るように敷設されているのが理想です。 しかし,直線レールだけでは模型鉄道になりませんから,車輪通過に制約が生じても小さな曲線半径や分岐器等を設けざるをえません。 そのため,線路敷設では予め走行可能な車輌(車輪)の範囲を絞って計画することにしました。 レールと車輪との関係は鉄道では最も重要な要素ですが,通常は市販品の購入(= 全てお任せ)に頼る部分なので,重要性の割には注意が払われていない気がします。 一方,車輪を自作する場合にはどの様な断面にも削ることが出来ますから特殊な試みも可能です。 ただ,これは長所でもありますが適正に作られていないと不具合の原因にもなります。 半径数cmの車輪に百kg重に近い荷重をかけ,秒速何mという速さで運動させるのは模型の 領域を超えたかなり厳しい条件で,実際の鉄道に通じるものがあります。 |
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〈大切な足元〉 レールと車輪 |
レールと車輪との関係が適当(=曖昧)では脱線
を防げませんから,鉄道の建設に着手する段階(1988年)で基準を決めました。このことは十数年にわたって少しずつ軌きょうを作り続け,その後も改良を予定している模型鉄道では重要なことでした。 ● 基準を厳密に守ることはレールと車輪との相性の悪さが原因の脱線予防のために必要です。 以前のOゲージ模型では,同じ場所で特定の車輪がよく脱輪し(原因はフランジの浮き上がりらしい),フランジをやすりで削ってみるなど苦労した経験があります。 ▼ 車輪製作にも目途がつき,ある程度の精度でも作れるようになりました。 精度にこだわると,ただ車輪を削るのではなく規定の数値や角度がもつ意味,削りすぎるとどんな不具合が生じるか,レールとフランジの接触状態などを想像しながら作ることになります。 その中で,車輪の直径は大きい方がよいか,小さい方がよいか。・・・という疑問がわいてきました。 ● 車輪断面の形が細かく決められているのは,車輪とレールとの接触が微妙な関係で単純ではないことを示しています。それならば,車輪(直径)の大小は走行状態に関係する筈です。 ▼ 大径車輪と小径車輪の相違は急カーブを曲がる際に強く表れるような気がしたので,カーブにおける状態を中心に考えてみました。 ● 前提になる知識がなく,思い付いたことを羅列しました。ピント外れに終わっているかもしれません。 |
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〈軌道の+α 〉 カントとスラック |
実際の鉄道では,カーブの箇所のレールにカントとスラックが付けられています。 (関連事項曲線標/甲号) 一方,模型鉄道は実際の鉄道とは質的な違いがありますから,そばな高原鉄道ではカントを0にし,カーブの強さに合わせたスラックのみをつけています。 ● カントを0にしたのは,遠心力を感じるような速度で運転するのは危険であり,低速運行を徹底すること。レール幅に対して著しく重心位置が高い「鉄道」ではカントよりバランス感覚(関連事項緩和曲線)で横転しないようにすることが肝心との考えです。 ● カーブの強さに応じてスラックの大きさを変える理由は下段(その2)にあります。 このスラックが大径車輪と小径車輪ではどのように関係しているのか,検討してみました。 |
1 フランジの接触は・・・ |
急カーブではフランジがレールを擦る状態になります。そこでカーブに於いて大径車輪のフランジの接触をスラックが減少させる効果があるのか考えてみました。
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右図はレールと車輪を上から見たときの様子です。直線レールではフランジはレールと一定距離を保ちますが,曲線レールではフランジがレールに接近します。 図の点Oは車輪踏面の接地点,点Pはフランジとレールが接触する場合の接触点とします。 この接近の程度Xを模型車輪について,以下の条件で実測してみますと,得られる値は問題にならない微小値であることが分かりました。 ● 曲線半径R=2000mmの急カーブ区間でフランジの接触点Pがレールに接近する値Xは,直径80mm車輪の場合,决=15mm程度なので X=(决)2/R=152/2000=0.11mm となります。葉書1枚より薄い厚さです。 (注:决の図は下 段にもあります。) 大径車輪になると决が大きくなりますが,X そのものが微小量なのでスラックの大小によって,フランジの接触を軽減する効果は無いようです。 ● 何となくスラックを大きくするとカーブでのフランジの接触が減るような気がしていましたが,上記の考えに間違いがなければスラックは殆ど影響しないことになります。感 じではなく,実際に細かく調べてみることもときには必要な様です。 |
2 踏面勾配の効果は・・・ |
スラックがあることによって車輪の踏面勾配が有効にはたらきます。
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カーブでは遠心力がはたらくので,外軌側の車輪は円周の大きな部分(図の赤線)がレールに載り,内軌側の車輪は小さな部分(図の青線)が載ります。 ● 急カーブでは内軌と外軌の長さの差が大きくなります。そこでスラックの値を大きくし,内軌側(青線)と外軌側の車輪(赤線)の直径(円周)を変えて曲がりやすくしています。 |
上記のように,スラックは車輪の半径を変える効果がありますので,スラックの値と車輪半径の減少量との関係を調べてみました。
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▼ スラックの大きさが
S(上図参照),踏面勾配が3°(そばな高原鉄道の車輪製作基準です。)のとき,内外軌の接触位置(赤・青線)を1つの車輪にまとめて描いてみると d=Stan3°≒0.0524S となります。 ● したがって,外軌側車輪半径をr とすると,内軌側車輪半径 r−d は r−d=r−Stan3°≒r−0.0524S となります。 |
次に,スラックと曲線半径との関係を調べるためにスリップさせることなく,輪軸をレール上で旋回させるには,スラックをいくらにすればよいか調べてみま
した。
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レールに載って回転する輪軸を,有効な車輪断面によって描き直すと右図のようになります。 踏面勾配のために外軌側車輪は外周が長く,内軌側は短くなり走行距離が異なっています。 スリップしない場合,車輪の円周と内・外軌の長さの関係は次式になります。 内軌: 2π(r-d)=(R-127-S)・θ 外軌: 2πr = R・θ 前項より d≒0.0524S なので,この3式よりθとdを消去して S=127r÷(0.052R−r) ● 式では分かり難いので具体的な数値で計算してみます。車輪の直径を100mm(=10cm)とし,曲線半径を5000mm(=5m)とします。このときの”理想的な”スラックは S=127×50÷(0.052×5000−50)=30mm 随分大きなスラックで車輪は円板というよりは円錐にしなければ脱輪してしまいます。 同様の条件で,車輪の直径を半分の50mm(=5cm)にしますと S=127×25÷(0.0524×5000−25)=13.4mm かなり小さな値になり,厚い車輪にすれば脱輪は避けられるかもしれません。 両者の比較から小径車輪の方が小さなスラックで済むことが分かり,小径車輪にするほど踏面勾配が有効に機能することが分かります。 |
カーブ対策に踏面勾配を利用できる余地は限られています。しかし,わずかとはいえ小径車輪が大径車輪よりもカーブを廻りやすい性質をもつことが分かります。
● 大径車輪は踏面勾配を5°にするなど,大きくすればカーブ対応がよくなる筈ですが,カーブ対策のみで車輪の断面形状が決まっているわけではないと思うので形状を変えることを試してみてはいません。 |
右図は大径車輪(青色)と小径車輪(黒色)をレールに載せたときの状態です。*1 車輪の踏面とレール頭部の接触点は赤印の位置で,接触点は同じですが半径が大きな車輪ほど先端部がレールの弧から外れます。 したがって,フランジとレールの接触点も車輪の大きさによって変化します。 ● 図でレールと車輪の方向はθの角をなしますが,θ1は小径車輪,θ2は大径車輪を表すこと とします。 |
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フランジはカーブで車輪をレール方向に回す(案内する)役目があります。*1 直線レールではフランジの根元付近のみが接触しますが,急カーブではフランジの先端近くまで接触させながら回ります。 このときにはたらく水平方向の力を考えてみます。 ● 考えるためのモデルなので実際とは異なりますが,カーブではフランジのP点(小径車輪),またはQ点(大径車輪)をレールとの接触点とします。 |
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車輪の向きを変える力は接触点P,Qに作用するレールからの水平方向の力(横圧)です。大径車輪と小径車輪は接触点が異なり
θ1<θ2 なので小径車輪の方がレールの線に沿う形で接触し,滑らかに回ることができます。 車輪の向きを変える力(横圧)は脱線の原因にもなるので,小さいにこしたことはありません。小さな「横圧」はフランジも擦らずにカーブを軽く曲がることになります。 ● θ の大小関係は図でも分かりますが,詳しくはカーブは軽快にをご覧ください。 |
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〈脱線=斜面を駆け上る〉車輪の大きさと斜面 |
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次に,上図のフランジとレール上面とのなす角α(小径車輪),β(大径車輪)が脱線とどの様な関係になるか,手で車輪をゆっくり
押した状態で調べてみます。 上図のフランジの接触点P,Qでレールに車輪が乗り上げて脱線がおこるとします。 右図は上図を描き直したものですが,考えやすくするために乗り上げ脱線を引き起こす力は車輪の回転を抜きにして,摩擦のない傾角α,またはβの斜面上に質量mの円板をおき,この円板を上方に押し上げるのに要する力として求めます。 |
図のように,輪重mgが鉛直方向にはたらくとき,車輪を斜面方向に押し上げるのに要する力は(剛体の回転運動ですが滑らかな斜面上の質点の運動としてしまうと) mg・sinα(小径車輪),または mg・sinβ(大径車輪)になります。 摩擦のない斜面で各車輪を押し上げるのに要する水平方向の最小の力をF1(小径車輪),F2(大径車輪)とすると右図の関係から F1 cosα=mg・sinα F2 cosβ=mg・sinβ 2力の大きさの比γは γ=(F2/F1)=(mg・sinβ×cosα/mg・sinα×cosβ)=tanβ/tanα したがって,小径車輪は大径車輪よりも強い力(1/γ倍)を受けないとレールへの乗り上げがおこらず脱線しにくいことが分かります。 ▼ 更に別の要素ですが,脱線は小石のような障害物に乗り上げなくてもレール側面とフランジの間の力(横圧)でも起こる可能性があります。 フランジには20°のテーパーをつけてあるので,この部分がレールに接した状態で大きな横圧を受けるとテーパー面に沿って車輪が浮き上がる力を生じることが考えられます。 軽量車輌におこりやすい現象だと思いますが,車輪の形状からみると大径車輪のフランジはレールからの横圧が大きく,レールとの接触面が広くて長いので浮き上がりがおこりやすいように思います。( 前段の「横圧」と図r1<r2を参照) ▼ 大径車輪が弱い力で障害物を乗り越える性質は脱線しやすい欠点を持ちますが,視点を変えるとレール面の凹凸から受ける衝撃力は小さくなります。 乗用車輌の場合,乗り心地が良くなり,人が乗った大きな軸重でもレールへの衝撃力が軽減される点では大径車輪の方が優れています。 |
庭園鉄道の急カーブは実車にはあり得ない半径を回ります。大径車輪と小径車輪とを比較してどちらがこの条件に合うのか,気になったので思い付
いた事項を検討してみました。
そばな高原鉄道は3インチ半ゲージの車輌はスケール,人の乗る車輌は5インチゲージと区分けしています。 これは3インチ半ゲージはスケールで作られた大径車輪を導入しても支障が少なく(下記),人の乗る5インチゲージ車輌は安全性と旋回性を優先 した軸距の小さいボギー車を使用することに関係しています。当然,乗用車輌は小径車輪で製作することになります。 「大径車輪−小径車輪」(本ページ )で記した点からみてもこの区分けが妥当で あったと思いました。 ● 大径車輪を3インチ半ゲージに使用しても影響が少ない理由は (1) 人が乗らず,比較的軽い車輌はカーブでの横圧が小さい。 (2) 3インチ半ゲージの「大径」車輪は5インチゲージからみれば「中径」車輪になる。 (3) 3インチ半ゲージならば元々軸距が小さく,大径車輪の影響が軽減する。 小さな車体に大きな荷重がかかる「ミニ乗用鉄道」の条件では,スケールを重視した大径車輪にこだわる必要はないと考えています。 走行上で有利な点があり,小さな車輪は自作が容易,材料費も安いので,この長所を生かして積極的に使用したいと思います。 |
2009.3.記 |
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