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 17  カーブは軽快に 個性をもった鉄道を目指して<3>

鉄道模型は大きさ(=軌間)によってそれぞれ特色を持っていますが,人が乗ることもできる3インチ半(89mm)ゲージ以上になりますと,それよりも小さな軌間(45mm以下)の模型とは質的に違うことに気付きます。簡単に言えば大型模型は模型の領域から実用鉄道の領域に1歩近づく感じになります。

人が乗るか,乗らないかはこの大・小2種の「模型鉄道」が相似形ではないことを示しており,一方はデザインを重視した鉄道模型,他方は重量物を実際に運搬する機械としての鉄道模型という気がします。
両者の質的な違いは車輌に限らず庭園鉄道全般にわたっており,自作する時に「壁」になるのはこの差異の部分に集中します。

〈始めにチェック〉車輪がスリップするから曲がれる
カーブの線路は外軌(=カーブ外側のレール)と内軌(=カーブ 内側のレール)の長さが異なりますから,その差Lを求めてみます。

▼ 5インチゲージの軌道で,90°カーブを回った(向きを変えた)ときの内軌,外軌の長さの差L
    L=L2-L1= (π/2)×(r2-r1)
              =1.57×127 =199mm≒20cm
となります。L2外軌の長さ,L1内軌の長さ,r2外軌の半径,r1内軌の半径)   
L≒20cm: レールは円に限らず緩和曲線であっても5インチゲージの線路が90°向きを変えれば,内軌と外軌の差は必ずこの値になります。 回転半径が100mでも1mでも常にこの値になるのは面白いことです。

▼左右の車輪が1本の車軸に固定されている輪軸(鉄道用語)は長さの異なる内軌と外軌を同じ回転数の車輪で通過しますから,長さの差Lはどちらかの車輪がスリップ して「辻褄合わせ」をしたことになります。
カーブを曲がりやすくするために車輪には踏面勾配がありますが,急カーブでは役に立ちません。

▼スリップの状態が並大抵でない事を具体的に考えてみます。

曲線半径 2.0mのカーブを90°回るときの走行距離は円周の1/4ですから 3.14m になります。したがって,わずか 3.14m の距離を走る間に20cm のスリップが行われるという極端な無理をしています。
試しに台車の片側の車輪をすべて固定して数cm引きずってみます。人が乗っていなければ動きますが,人が乗ると動かすのは困難です。

以下は概算ですが,片側の車輪を固定した総重量60kgの台車が直線レールを2.0m/sの速さでスリップしながら運動するとスリップ分によるエネルギーロスは
   P=μmg×v=0.2×(60÷2)×9.8×2.0≒118〔W〕  
この値は小型機関車の場合,出力を上回る大きさになり,カーブでは他の損失も大きいことから,列車に助走をつけ(=運動量を増し)て走り抜ける ことでしか通過できないかもしれません。

このように,急カーブでの駆動力(運動エネルギー)の損失は大きく,重量のある車輌の通過はレール(特にアルミレール)を削り取る仕事( 物理用語)に変わります。

スリップしないように砂箱まで装備している車輌が,カーブではスリップさせるために水(箱根登山鉄道)や油(庭園鉄道)をレールに撒くという矛盾がおこります。

庭園鉄道では日常的におこっている「無理」ですが,「鉄道」を標榜するからには,この構造欠陥を黙認できません。急カーブに対応する方法をいくつか考えてみました。

〈無理は禁物〉車輪を滑らせずに曲がる
内,外軌の車輪を同じ速さで回転させたのでは曲がれないので,レール上でスリップさせながらフランジに横圧を加えて無理やりに進路を曲げ ますが,急カーブになるとかなりの無理が生じます。
横圧=レール側面からフランジに働く力/鉄道用語)

▼スリップに頼らず滑らかにカーブを通過させるにはスリップを回転に変えればよいわけで,カーブでは左右の車輪の回転の速さを変える方法をとります。

対策T
「無理」の原因が左右両輪を同位相で回転させる構造にあるので,一方の車輪を車軸に固定せず自由に回す構造に変えます。

そばな高原鉄道の車輌は駆動輪以外,すべて片側の車輪が車軸に固定されず自由に回る構造にして,曲がりやすくしています。

▼左右の車輪が独立して回る構造は駆動輪の場合,駆動力の伝達に不都合がありますから工夫が必要になります。以下はその対策です。

対策U
 【動力源が1つの場合】 回転運動を左右の駆動輪に伝達する際に,異なる位相で各々の駆動輪が回る構造にします。(右上図)

自動車の差動機と同様の機構になるので少し複雑になります。この構造をもつ機関車のページを準備中です。

対策V 【複数の動力源の場合】 内軌側と外軌側の車輪を別々に駆動すればカーブに適した回転速度を車輪に与えることができます。(右下図)

左右の車輪を逆回転させると車体が1点の周りでも回れる構造です。左右の車輪の位相差をカーブに合わせてバランスを保つことが必要です。

▼車輪が個別に回る構造はブレーキの機構にも関係し,ブレーキは複雑になります。

対策W 
輪軸では無く車輪単位で制動装置を付けなければいけないので大変です。数が多く,各車輪に同程度の制動力を加える必要もあります。

車輪をブレーキシューで制動する実車に似た機構にすると格好はよいのですが,製作には手間がかかります。運転用ボギー車のブレーキはこの方法で全8輪を制動しています。

曲線≒直線 〉カーブ通過は「軸距」次第* (軸距=車軸間の距離/鉄道用語)
回転する車軸の方向がレール方向と直角になるとき車輪は滑らかに回転します。

しかし,1軸車輌(=鉄道には存在しません)でない限りカーブ区間で車軸を レールと直角な方向に向けることは出来ません。
右図の2軸車(=4輪車)の場合,車軸は円弧の中心Oに向かず,車輪は進行方向に対してθだけ傾いたまま矢印方向に進みます。 このとき,車輪の踏面はレール上で横滑りの運動もしていることになります。

▼傾きθをもっと詳しく調べてみます。
いま,軸距d の2軸車が曲線半径 R のカーブを回るとき,微小な傾きの角度θは,図より
Rsinθ=d/2
arcsinの計算は鉄道模型とは関係が無いので省略し,θの値だけを記しますが
θ=sin-1d/2R)≒(d/2R)+(d3/48R3
上式の右辺第2項にd3があるので,ある値を超えたdになると急にθが大きくなり,カーブを曲がれない状態になることが式の上からも分かります。

車輪の回転に支障を与えないθの許容範囲はフランジの形などが関係し走行実験をしないと分かりません。ただ,式からは庭園鉄道にとって重要な以下のことが分かります。
半径3mのカーブを回ることができる軸距 40cmの台車の車輪は軸距を20cmにすれば半径1.5mのカーブでも同等に回れます。

同様に,この車輪で軸距7cmのボギー台車を作り,適度な長さのボギー車にすれば,理屈上は半径57.5cmのカーブでも同じ条件で曲がれることになります。
軸距を短くすることと,車輪の一方を自由に回す構造を併用するのが庭園鉄道の急カーブ対策ということになります。

θを持ち出して軸距とカーブの強さの 関係を出そうとしましたが明快にはなりません。θを使わずに〈始めにチェック〉で計算した内・外軌差Lに戻って感覚的に考えてみました。

軸距を短くするというのは,曲線の狭い範囲は直線に近づくという”性質”に関係しています。(下記,余談1
この”性質”によって,2軸車の軸距(=車軸間距離)を小さくすることは,曲線レールを直線レールに近づけるように曲げ直したのと同じ効果を持ちます。
別の言い方をすれば,Nゲージは軸距が小さいので,5インチゲージには急曲線でも,Nゲージの車輌にとっては緩やかなカーブを走ることになるともいえます。

上の〈始めにチェック〉に記したように,曲線半径 2.0mのカーブを1/4円周(90度)回るときの走行距離は 3.14m になります。
この場合の内,外軌の長さの差L

5インチゲージでは L=L2-L1= (π/2)×(r2-r1) =1.57×12.7≒20cm
Nゲージの場合は   L=1.57×0.9 ≒1.4cm

曲線半径2.0mのカーブを3.14m走って,内・外軌の差が一方は20cmもあるのに他方が1.4cmにしかならないのは,全く同じ円周上なのに
 「Nゲージの線路のカーブは弱くなる」・・・と感じませんか?

実際にNゲージの場合は車輪の踏面勾配もその役割を果たしていて,ほとんどスリップすることも無く滑らかに半径2.0mのカーブを曲がっているはずです。

Nゲージでカーブが弱くなることと軸距を小さくしてカーブが弱くなることとは同じではありませんが,θを小さくする方法としては一致しています。

このことは3インチ半ゲージついても同様で,軌間が狭くなるために
L≒14cmになります。分岐器の製作のページ をご覧いただくと分かりますが,1つの3線式分岐器において,5インチゲージの番数は4番,3インチ半ゲージでは5番になるという不思議?なこともおこります。
三線分岐器にまで「軌間・軸距が狭くなるとカーブは緩くなる・・・」ことがみられるのは面白いと思います。(該当ページを参照する。)

余談1 曲線≒直線になることはいくらでもあります。これは曲線は分割する基準の長さ(軸間距離もその1つ)を変えると曲がりの強さが変わることを示しています。
地球は大きな球面ですから太平洋も大きな球面の一部です。それならばバケツや池の水は球面の筈です。しかし,誰に聞いても球面でなく「水平面」と答えます。 どんなに厳密に調べても測定結果は平面です。
スケールを変える,あるいは非常に微細な部分を切り取ると,曲線≒直線,更に曲線=直線(区別できない領域)になります。

余談2 松林の続く砂浜,のどかな田園風景の中を走る湘南の「汽車」は音から先にやって来ました。
よく,海水浴で遊びに行った伯父の家は生垣と道路の向こうに東海道線の線路があり,機関車の種別や車輌編成を音で知らせてきます。(緑とオレンジ色の湘南電車が走る前の東京駅には 「熱海行」などの札を下げた客車が特急や急行に混じって並んでいました。)
貨物列車の音は編成の長さに期待感があり,聞き耳を立てて「もう70輛目だ!」といつも頭の中で数えていました。

カタ」,「コト」とほぼ等間隔に聞こえるジョイント音(=継ぎ目板部分の通過音)は旅客列車(ボギー車)の「ガタガタゴトゴト」,一瞬 ,間をおいて「ガタガタゴトゴト」 という忙しい音とは違って風景に溶け込み,2軸車への親しみを感じさせました。
上記θに関連して,レールの継ぎ目板(ジョイント)部にかかる横圧を考えてみると,2軸の貨物列車では,1輌通過する毎に→大→小→大→小と変化します。
継ぎ目板は
カタ-「大」,コト-「小」,カタ-「大」,コト-「小」 ,と横圧の変化を感じながら車輌の数を数えていたのかもしれません。
(横圧=レール側面からフランジに働く力:鉄道用語)
2009.2.記

 

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